夜光虫

夜、海沿いの道を自転車で走っていると、
波が青白く光っているのが目にとまりました。

どうやら月の光や街灯の反射ではなさそうです。
自転車を停めて海辺の暗がりの中へ歩み寄ると
音をたてて崩れはじめた波頭そのものが
ぼんわりと青く発光しているのがわかりました。
そう、夜光虫がいるのです。

波に巻かれながら夜光虫はどんな気持で光っているのかなぁ・・・
そんなことを考えていたら、とある別の発光する生き物のことが
思い出されました。

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その名は「ハーモニウム」。
美しい音を食べてアクアマリンブルーに光る不老の生き物。
彼らはたった2つの言葉でコミュニケーションします。その言葉とは、
「I'm here.」「I'm glad you're there.」

ハーモニウムはSF作家カート・ヴォネガットの小説に登場する
架空の生命体です。
彼らはまた90年代初頭に存在していた幻の衛星デジタル放送局
「セント・ギガ」のシンボルでもありました。

1日24時間という時間概念を脱ぎ捨てたその放送局では、
太陽の運行や潮の干満といった自然界のリズムを軸に
音声のみの生放送によってプログラムが構成されていました。
それは、サンゴの波音や森の小鳥たちのさえずりといった
世界各地から丁寧に拾いあつめてきた自然界の音に、
選りすぐりの音楽をちりばめた美しい「音の潮流」でした。

衛星から降りそそぐその音は、乾いた都市に暮らす人々の心を
どんなにか清らかに潤してくれたことでしょう・・・・

セント・ギガはわずか数年輝いたのち、自然消滅してゆきました。
そしてもう二度と、あの夢のような「音の潮流」に
身をまかせることはできないのです・・・・・

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闇の向うから次々と現れては消える青白い光のオビ。
眺めていると時間の感覚がだんだん失われていくような感じがします。
あたりを満たすのはザワザワという波のさざめく音だけ。
その中にはきっと夜光虫たちのつぶやきも混じっていることでしょう。

「私はここにいる」「君がそこにいてよかった」

今は亡きセント・ギガが見つめていたであろう美しい世界。
この光景もきっと、そのうちの1つなんだろうな・・・・

少しだけ、自分の体も青く光っているような気がしました。
by glass-drop | 2005-02-13 23:43 | 自然